東京地方裁判所 昭和40年(ワ)12002号のイ 決定 1966年4月30日
原告 路川篁 外九名
被告 日本電信電話公社
主文
本件申請を却下する。
理由
本件申請の要旨は本決定末尾添付の別紙記載のとおりである。
一、民事訴訟法は輔佐人の許可に関する要件についてなんら規定を置いてはいない。しかし、同法第八八条、第一三五条、第七九条、第八四条等の諸規定に徴すると、(イ)当事者に弁論能力がないとはいえないが、難聴、言語障害、老齢、知能不十分等の原因に基づき訴訟上の行為をするについて相当の困難があり、これがため訴訟が必ずしも円滑に進行しない場合、もしくは、(ロ)当時者または訴訟代理人が当該事案の性質上特に必要とされる専門的知識を欠くため、適切な攻撃防禦を行うことが因難であり、これがため権利の伸張、擁護に万全を期し得ないおそれのある場合において、裁判所は裁量により輔佐人とともに出頭することの許可を与え得るけれども、(ハ)単に当事者が日常、訴訟と無縁であつてこれにうといとか、相手方が訴訟事務に熟達した訴訟代理人を選任しているとかいう事情がけでは右許可を与うべきものではなく、右(ハ)のような事情によつて生ずる当事者の不利益は本来訴訟代理人の選任によつて救済さるべきであつて、かかる場合にまで輔佐人制度を利用することは許されないものと解するのが相当である。
二、これを本件についてみるのに、頭書未払賃金請求事件の審理において、申請人らがこれまで訴訟上の行為をするにつき前記(イ)の如き因難の存しなかつたごとは準備手続の経過に徴し当裁判所に職務上顕著であるのみならず、右事件が前記(ロ)に述べたような専門的な知識を必要とする特殊な事案であるとも認め難い。右事件における主たる争点の一つは、日本電信電話公社(以下公社と称する)と全国電気通信労働組合(以下全電通と称する)との間に締結された現行協約の解釈である浄、記録によれば、右協約の具体的内容に関しては、「昭和二九年九月三〇日以降の日本電信電話公社職員の賃金体系に関する協定」のみではなく「賃金協定第一一条第三号の解釈運用に関する覚書」「給与規則の解釈運用(依命例規)」の各関係条項の存在が申請人らによつて準備手続上既に主張されているばかりではなく、右関係条項自体が申請人らの争議に参加したと主張している昭和四〇年四月二〇日始業時より正午にいたる行為時及び申請人らに対する公社の戒告処分当時に存在していた事実は、当事者間に争がないのであるから、前記協約成立の経過、運用の状況等解釈の資料となるべきいわゆる間接事実の主張立証を補うことがなお必要であるとしても、専門的知識がなくてはかかる事実の主張立証が因難であるとは考えられない。
三、なお、同事件の原告である申請人らが通常訴訟に習熟する機会があるとは思われない公社従業員にすぎないのに反して、被告である公社が訴訟に相当熟達していると推定すべき法務大臣指定の法務省職員を含む一一名の指定代理人によつて代理されていることは記録上明らかであるが、このような事情が申請人らにつき輔佐人を許可すべき理由とならないことは前記凶に判示したとおりである。申請人らは、これでは、公正な裁判を期待できないと主張するけれども、弁護士強制主義をとらないわが民事訴訟法のもとにおいて、当事者の一方が弁護士その他訴訟に明るい訴訟代理人によつて代理されるのに対し他方が訴訟に全く暗い当事者本人によつて訴訟を追行するという事態の生ずることは必ずしも稀ではなく、しかも、このような場合においても裁判所は釈明権(民事訴訟法第一二七条)の行使その他の方法により当事者双方に攻撃防禦をつくさせ公正な裁判をするを要するのであつて、当事者としても当然これを期待し得るのである。それ故、申請人らの前記主張は当らない。
四、以上の次第であるから、本件申請はこれを却下すべきものと認め、主文のとおり決定する。
(裁判官 川添利起 園部秀信 西村四郎)
輔佐人許可申請書<省略>